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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)5288号 判決

原告

神鋼アルフレッシュ株式会社

被告

株式会社明拓

外2名

主文

1  被告株式会社明拓、被告明拓アルコン株式会社は、別紙(1)記載の窓の改装工法を使用してはならない。

2  被告株式会社明拓、被告松井弘一は、原告に対し、各自金35万1888円及びこれに対する昭和56年8月4日から支払済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

1 主文第1項同旨。

2  被告らは、原告に対し、各自金80万6433円及びこれに対する昭和56年8月4日から支払済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。

3  主文第4項同旨。

4  仮執行宣言。

2 請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者の主張

1  請求原因

1 原告は次の特許権(以下これを「本件特許権」といい、その発明を「本件発明工法」という)を有している。

発明の名称 窓の改装法

出願 昭和47年4月17日(特願昭47-38987)

公告 昭和54年9月7日(特公昭54-27063)

登録 昭和56年9月22日(第1064356号)

特許請求の範囲

「旧設鉄製外窓枠を建造物基台より除去することなくアンカー下地として残存せしめ、この残存せしめた旧設鉄製外窓枠に嵌入れられるよう予め上下左右枠を窓枠状に枠組し且つ外周縁にアンカー用鉄製補助金物をもつ新しいアルミニウム製外窓枠を旧設鉄製外窓枠に嵌入れ、次にアンカー用鉄製補助金物と旧設鉄製外窓枠または旧設鉄製外窓枠を予め補強した補強用補助金物との間に連結用鉄製補助金物を介在させ、その一端を前記アンカー用鉄製補助金物に溶着すると共に他端を旧設鉄製外窓枠または補強用補助金物に溶着してアルミニウム製外窓枠を旧設鉄製外窓枠に固着するようにした各工程よりなることを特徴とする窓の改装法」。

2  本件発明工法の構成要件及びその作用効果は次のとおりである。

(1)  構成要件

(1) 旧設鉄製外窓枠を建造物基台より除去することなくアンカー下地として残存せしめ、

(2) この残存せしめた旧設鉄製外窓枠に嵌入れられるよう予め上下左右枠を窓枠状に枠組し且つ外周縁にアンカー用鉄製補助金物をもつ新しいアルミニウム製外窓枠を旧設鉄製外窓枠に嵌入れ、

(3) アンカー用鉄製補助金物と旧設鉄製外窓枠または旧設鉄製外窓枠を予め補強した補強用補助金物との間に連結用鉄製補助金物を介在させ、

(4) その一端を前記アンカー用鉄製補助金物に溶着すると共に他端を旧設鉄製外窓枠または補強用補助金物に溶着してアルミニウム製外窓枠を旧設鉄製外窓枠に固着するようにした

(5) 窓の改装法

(2) 作用効果

(1) 建築物基台のハツリ作業を行うことなく、旧設鉄製外窓枠の不要な出張の部分を切除するだけであるから、作業日数の短縮化に貢献し、作業騒音もなく足場を組むことも不要である。

(2) 外観上の体裁が悪くない。

(3) 予め定められた形状とサイズの各種補助金物を介在させることによって改装窓枠を提供することができる。

(4) 新しいアルミニウム製外窓枠の枠組が容易であると共に各枠材間の芯合せを正確に行うことができ、また連結用補助金物を介在させ嵌合誤差を吸収して新設窓枠を正確な位置に取付けるようにした。

3  被告会社両名は、昭和54年9月ころから別紙(1)記載の窓の改装工法(以下「イ号工法」という)を使用している。

4  イ号工法の構成及び作用効果は次のとおりである。

(1)  構成

(1)' 旧設鉄製外窓枠103を建造物基台より除去することなくアンカー下地として残存せしめ、

(2)' この残存せしめた旧設鉄製外窓枠103に嵌入れられるよう予め上下左右を窓枠状に枠組しかつ外周縁にアンカー用鉄製補助金物をもつ新しいアルミニウム製外窓枠104を旧設鉄製窓枠103に嵌入れ、

(3)' アンカー用鉄製補助金物107a107b107cの夫々と旧設鉄製外窓枠103との間に連続用鉄製補助金物108を介在させ、

(4)' 右の連結用鉄製補助金物108の一端をアンカー用鉄製補助金物107a107b107cの夫々に溶着すると共に、他端を旧設鉄製外窓枠103側に溶着して、アルミニウム製外窓枠104を旧設鉄製外窓枠103に固着するようにした

(5)' 窓の改装工法

(2) 作用効果

イ号工法は前記構成を採用することによって、第2項(2)記載の作用効果を有する。

5  イ号工法は、その構成(1)'ないし(5)'がそれぞれ本件発明工法の構成要件(1)ないし(5)を充足し、その作用効果も同一であるから、本件発明工法の技術的範囲に属する。

6  被告会社両名はイ号工法を用いて別紙工事一覧表(1)(2)記載の各工事(以下「本件工事(1)(2)」という)をなした。

そして、被告松井は被告会社両名の代表取締役であるところ、イ号工法が本件発明工法を侵害することを知り又は過失により知らないで本件工事(1)(2)をなしたものであるから、被告会社両名と不真正連帯して原告の蒙った損害を賠償すべき義務がある。

ところで、原告は本件発明工法の実施に対し、通常受けるべき金銭の額に相当する額の損害を蒙ったというべきところ(特許法102条2項参照)、原告は昭和55年11月1日、訴外三井軽金属加工株式会社(以下「訴外会社」という)との間で本件発明工法を含め66個の工業所有権につき一時金3000万円、実施料工事請負代金の1パーセントの約束で実施許諾契約を締結しており、そうすると、別紙工事一覧表(1)(2)記載の「対象金額」欄の合計額の3518万8882円に対し1パーセントである35万1888円及び一時金3000万円に対する66分の1である45万4545円(3000万円は66個の工業所有権に対して支払われているので、本件特許権分として66分の1の一時金としての実施料を分割実施金に加算した金員が本件損害額相当額となる)の合計額80万6433円が通常受けるべき金額となる。

よって、原告は被告会社両名に対し、イ号工法の使用差止を求めると共に、被告ら3名に対し、各自損害金80万6433円及びこれに対する不法行為の日の後で訴状送達の日の翌日である昭和56年8月4日から支払済に至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 請求原因に対する認否

1 請求原因1ないし5の各事実は認める。

2 同6の事実のうち、被告株式会社明拓がイ号工法を使用して本件工事(1)(2)をなしたこと、原告と訴外会社間で原告主張の契約がなされたこと及び本件工事(1)(2)の工事代金が別表工事一覧表(1)(2)記載のとおりであることは認め、その余は争う。

3 抗弁

1 訴外会社は昭和55年ごろ、原告から本件発明工法につき通常実施権を許諾された。

2 訴外会社は各購入者に対し、三井工法として本件発明工法を実施させており、右契約時までの過去の実施料分として本件特許権分を含め3000万円の金額が決められたのであり、本件工事(2)はいずれも被告株式会社明拓が上訴外会社から上契約以前において改装用窓枠を購入し、本件発明工法を三井工法として施行したものであるから、その実施料相当分は既に上訴外会社によって支払われているものである。

3 原告は前記契約により、訴外会社の過去の実施行為のみならず再許諸行為及びこれに基づき本件発明工法を三井工法として実施した被告らを含め各業界に対しても免責もしくは実施料支払免除の合意をなしたものである。仮にしからずとするも、前記契約はこれを黙示の合意事項とし、これを前提として締結されたものである。したがって本件工事(2)について被告らに実施料支払義務はない。

4 抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実は認める。

2 同2、3の各事実は否認する。3000万円は将来の実施料であって過去の実施料相当分ではない。また、原告と訴外会社の本件実施契約は何ら被告らに影響を及ぼすものではない。

第3証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

1  請求原因1ないし5の各事実は当事者間に争いがない。

2  被告株式会社明拓(以下「被告会社明拓」という)がイ号工法を用いて本件工事(1)(2)をなしたこと、昭和55年ころ原告と訴外会社間で本件発明工法を含め66個の工業所有権につき一時金3000万円、実施料工事代金の1パーセントの実施契約が結ばれたこと及び本件工事(1)(2)の工事代金が別紙工事一覧表(1)(2)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第8、9号証によれば、訴外会社に対する本件工事(2)用の窓枠の注文のための図面に被告明拓アルコン株式会社の名前が記載されていることが認められるものの、右事実から直ちに被告明拓アルコン株式会社がイ号工法を使用して本件工事(1)(2)をなした事実を推認することはむつかしく、他に上事実を推認するに足りる証拠はない。

被告会社両名代表者兼被告松井本人尋問の結果によれば、被告松井は本件工事(1)(2)がなされた当時被告会社明拓の代表取締役であり、本件工事(1)(2)をなす段階で原告の本件特許が業界で問題になっていたため、訴外会社と特許侵害問題について相談をしていることが認められ、上事実によれば被告会社明拓が本件工事(1)(2)をなすことにつき、被告会社明拓代表取締役であった被告松井は本件工事(1)(2)をなすことが本件特許権を侵害することを知り又は少なくとも過失によってこれを知らなかったことが認められるから、上侵害行為は故意又は過失によってされたものというべく、被告松井及び被告株式会社明拓は不真正連帯の関係で上不法行為によって原告が蒙った損害の賠償をすべき義務がある。

そこで損害額について検討する。

原告は前記1記載のとおり、訴外会社に対し、本件発明工法を含め66個の工業所有権につき一時金3000万円、実施料を工事代金の1パーセントとして許諾しているから、特許法102条2項により損害額と推定される「通常受けるべき金銭の額」は上3000万円のうちの本件特許分と1パーセントの実施料相当額との合計額であると主張するが、証人福田昌巧の証言及び被告会社両名代表者兼被告松井本人尋問の結果によれば上一時金は過去の実施料の性質を有するものと認められるから、これを実施料算定に参酌するのは相当でないのみならず特許法102条2項にいう通常受けるべき金銭の額とは客観的に相当な実施料(ランニングロイヤリティ)を意味し、一時金(頭金或いはイニシャルペイメント)はこれを含まないものと解するのが相当である(一方では侵害行為の差止を求めるものであるから、一定期間の将来の実施を保証する対価の性質を有する一時金の支払を受けることとは性質上相容れ難いものがある)。

したがって本件における原告の通常受けるべき金銭の額は、抗弁が認められない限り、本件工事(1)(2)の工事代金のうちイ号工法使用の対象金額3518万8882円の1パーセントである35万1888円(小数点以下切捨)と認めるのが相当である。

3  抗弁について判断する。

1 抗弁1の事実(原告、訴外会社間の実施契約の存在)は当事者間に争いがない。

2 抗弁2、3につき判断する。

証人福田昌弘の証言により真正に成立したと認められる甲第3号証、成立に争いのない乙第6ないし第11号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第12、13号証、証人福田昌巧、同井原昌良の各証言及び被告会社両名代表者兼被告松井本人尋問の結果によれば、(1)訴外会社は、本件発明工法と同一の工法を三井工法として宣伝していたこと、(2)被告会社明拓は訴外会社に取替用窓枠を注文し、訴外会社製造の窓枠及び三井工法を使用して本件工事(2)を施工したこと、(3)訴外会社と原告とは、本件特許権を含め工業所有権につき実施契約を結び過去の実施料として一時金を支払い、訴外会社の過去の本件特許権を使用した分については免責することとしたこと、(4)訴外会社は原告に対し右契約締結前の窓枠の販売先、販売金額、工事場所などを報告しており、本件工事(2)も上報告に含まれていること、(5)訴外会社から窓枠を購入して施工した業者で原告から提訴されているのは被告らのみであること、以上の各事実が認められる。

しかし、他方、前記各証拠によれば、(1)訴外会社は窓枠の販売のほか訴外会社自身或いは下請を使って窓枠取付工事をなしており、前記一時金の支払による免責は訴外会社実施分につきなされたと解しても不自然ではないこと、(2)被告会社明拓が本件工事(2)をなしたのは訴外会社の下請或いは手足として行ったものではないこと、(3)訴訟になったのは被告らのみであるものの、原告は訴外会社以外の14社と1500万円ないし2250万円の一時金で実施契約を締結しており、被告らにもその旨の話があったこと、以上の各事実が認められ、右事実に照らすと、前段認定の事実から直ちに訴外会社支払の一時金に本件工事(2)の実施料も含まれているとか或いはこれによって被告らとの関係でも免責免除もしくは黙示の免責の事実を推認することはむつかしく、被告会社両名代表者兼被告松井本人尋問の結果中、訴外会社が本件工事(2)につき原告に報告しており被告らは免責されていると訴外会社より確認を得ている旨の供述は、原告従業員の福田昌巧は上免責の事実を否定しており(証人福田昌弘の証言)、また、訴外会社従業員の井原昌良は右の点についての証言があいまいである(証人井原昌良の証言)ことに照らすと、上供述を直ちに採用することはできず、他に抗弁2、3の事実を認めるに足りる証拠はない。

4  よって、原告の請求は、被告会社両名に対し、イ号工法の使用差止及び被告会社明拓、被告松井に対し、各自35万1888円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和56年8月4日から支払済に至るまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条、92条、93条を、仮執行宣言につき同法196条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(潮久郎 鎌田義勝 徳永幸蔵)

〈以下省略〉

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